皮膚炎を起こしやすい

皮膚炎

亜鉛と皮膚炎の関係

亜鉛は体内でのエネルギー生成やタンパク質の合成、成長ホルモンや性ホルモンの産生、皮膚代謝や免疫力の維持などに関与する必須ミネラルです。特に、亜鉛は多くの酵素のはたらきに必要とされています。人の身体は毎日の食事からエネルギーを得るために常に化学反応を起こしており、酵素がなければ効率的にエネルギーを作り出すことができません。亜鉛は300種類以上の酵素のはたらきに必要とされており、重要な役割を果たしています1)

このように身体の中で様々なはたらきをしている亜鉛ですが、身体の中から作り出すことはできません。また身体の中に貯蔵することもできないため、毎日の食事から摂取する必要があります。極端な偏食や小食を続けていると亜鉛不足を招く可能性があり、亜鉛不足になると皮膚炎を始め、様々な症状が現れます。実は、亜鉛と皮膚炎は密接な関係があるのです。

皮膚炎のメカニズム

そもそも皮膚炎はどうして起こるのでしょうか?多くの場合、なにかしら皮膚炎の原因となる刺激物質が存在しています。漆(うるし)などの植物に触れて手がかぶれたりネックレスなどの金属で皮膚が赤くなったり、それ以外にも、洗浄力の強い洗剤を使って食器を洗っていただけで手が荒れることもあります。いずれも漆、金属、洗剤などが刺激物質となっているのです。このように、刺激物質が触れただけで起こる皮膚炎を『接触皮膚炎』と呼んでいます。

接触皮膚炎が起こるメカニズムは、アデノシン三リン酸(ATP)という物質がキーになっています。ATPは人の身体にとってエネルギーの元のようなもので、生命活動で利用されるエネルギーの貯蔵・利用などにおける中心物質です。通常、ATPは人の細胞内に存在しているのですが、物理的な接触や外部ストレスなどの様々な刺激によって簡単に細胞外に放出されてしまいます。細胞外に放出されたATPは炎症を引き起こすことがわかっており、刺激物質により大量に細胞外に放出されたATPが皮膚炎を引き起こしてしまうのです。

皮膚炎

亜鉛不足による皮膚炎

本来、細胞外に放出されたATPは酵素のはたらきで速やかに分解されていきます。このATPを分解する酵素にも亜鉛が大きく関わっているのです。亜鉛不足の状態では、ATPを分解する酵素のはたらきが弱く、なかなかATPを分解していくことができません。そのため、細胞外に放出されたATPはどんどん増えていき、周りに炎症を引き起こし、皮膚炎となってしまいます。

また、亜鉛不足が皮膚に症状を示すことにも理由があります。身体の中では筋肉に亜鉛が最も多く存在していますが、皮膚にもある程度の量が存在しています。そして、皮膚に存在する亜鉛のうち70%程度が皮膚の一番外側にある表皮に含まれています。皮膚炎が起こると皮膚の上層はパラパラと剥がれ落ちてしまい(剥脱)、そこに含まれている亜鉛も失われていきます。そもそも亜鉛は皮膚の新陳代謝に重大な役割を果たしていることに加え、皮膚炎を起こしてしまうと表皮剥脱から更なる亜鉛不足の状態になりやすく、その結果また皮膚炎が悪化する…といった悪循環を引き起こしやすいのです2)。(特にアトピー性皮膚炎などの疾患にて、この悪循環を引き起こしやすくなります。)

乳幼児の皮膚炎にも関与

かわいいお子さんのスベスベだった頬や手足が荒れているのを見つけると心配になります。赤ちゃんや幼い子どもの皮膚は、一見水分たっぷりのみずみずしい肌のように思いますが、表皮の厚さは大人の皮膚の半分しかなく、実は乾燥に対するバリア機能がとても低い状態です。特に皮脂の分泌量は生後1カ月頃がピークで、生後2~3カ月頃から急速に減少していきます。そのため、赤ちゃんの肌はとても乾燥しており、外部刺激にも敏感で、皮膚炎を起こしやすい状態であるといえます。

大人と同様、乳幼児の皮膚炎にも亜鉛不足が大きく影響していることがあります。赤ちゃんのおむつかぶれや口周りの湿疹がなかなか良くならず、塗り薬を塗っていてもただれのようになってきた…それが実は亜鉛不足が原因であった、というようなことがあるのです。特に母乳により栄養を摂取している赤ちゃんには、お母さん自身が無理なダイエット等で亜鉛不足になってしまうことが大きな影響を及ぼすこともありえます。

なかなか治らないお子さんの皮膚炎は、亜鉛不足が影響しているかもしれません。亜鉛不足かどうかは、血液検査ですぐにわかります。気になる方はかかりつけの医師に相談してみるとよいでしょう。

1)児玉 浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌 2018; 40(2): 120-167
http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf

2)有沢 祥子:アトピー性皮膚炎の亜鉛補充療法. 亜鉛栄養治療 2021; 1(2) : 74-77
https://kenkyuukai.m3.com/journal/FilePreview_Journal.asp?path=sys%5Cjournal%5C20130823103844-74A096DD4AC0AFD0CC13A890BF67F6C4024D9603893B225CC2ABA164FDF7BE90.pdf&sid=738&id=1&sub_id=17445&cid=471

監修:
帝京平成大学大学院 健康科学研究科
特任教授 児玉 浩子 先生