床ずれに悩む

床ずれ

床ずれ(褥瘡)とは

床ずれ(とこずれ)は、医学的には褥瘡(じょくそう)と呼ばれています。
一般社団法人日本褥瘡学会によると「褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと」1)と定義されています。

私たちは就寝中も無意識のうちにこまめに体制を変え、同じ場所が圧迫されないようにしています。
しかし、寝たきりなどで自分で体勢を変えられない場合には、身体の重みで同じ場所の皮膚が圧迫されてしまいます。その時間が長くなると、局所的に血流が悪くなり、圧迫された部分に十分な酸素や栄養が行き渡らず「床ずれ(褥瘡)」ができてしまいます。最も床ずれができやすいところは仙骨部(おしりの中央にある三角形の、尾てい骨の上部にある骨)で、次いで肩甲骨部、頭部、かかと、ひじが多く、耳、肩、膝、くるぶしなどにもできます。皮下脂肪が少ないところは身体の重みが集中しやすく、ベッドや敷布団で圧迫されて床ずれができやすいといわれています。車椅子に乗っている時間が長い人では、日中であっても、圧迫されやすい坐骨部、尾てい骨部、背中、肘などに床ずれ(褥瘡)ができやすくなります。

床ずれ(褥瘡)の症状

皮膚が長い時間圧迫され血流が悪くなると、皮膚には赤みやただれ、水ぶくれができてしまいます。さらに、圧迫が続き血流が悪い状態が続くと水ぶくれが破れ、膿(うみ)が出て潰瘍(かいよう:皮膚がただれた状態)になります。潰瘍になった皮膚は壊死(えし:皮膚の細胞が死滅する)します。
潰瘍部分は皮膚の表面だけでなく、皮下脂肪や筋肉・骨が見えてしまうくらい深く広がり、床ずれの悪化につながることもあります。

筋肉や骨に達した重度(深達度分類Ⅳ度)の床ずれは、強い痛みを伴い、体勢が制限され他の部分の床ずれを引き起こす危険もあります。
それだけではなく、皮膚のバリア機能が失われた床ずれから、細菌が入り込みやすくなります。感染すると床ずれはさらに治りにくくなり、最悪の場合、重篤な感染症を引き起こし命の危険にもつながるのです。

床ずれ(褥瘡)の重症度(深達度分類)

褥瘡重症度

床ずれ(褥瘡)の原因

床ずれができてしまう原因には、大きく分けて外的因子と内的因子の2つがあります。

外的因子

外的因子とは、皮膚に外から加わる影響のことです。

  • 麻痺など、病気により自分で身体を動かせないなどの活動制限がある
  • やせによる骨の出っ張り
  • 皮膚の摩擦やずれ
  • 皮膚の湿潤

外的因子のなかで、局所的に圧力がかかる状態を避けることが大切です。人の身体には圧力がかかりやすく、床ずれができやすい場所があります。下図矢印の場所に圧力をかけないように、こまめに体勢を調整するのも床ずれの発生予防と重症化予防にはとても大切です。
褥瘡

内的因子

内的因子は以下があげられます。

  • 低栄養
  • やせ
  • 加齢
  • むくみ
  • 血圧低下
  • 痛みに対する感覚や意識の低下
  • 糖尿病や感染症などの合併症による免疫力低下
  • 皮膚状態の悪化

このようなたくさんの因子が絡み合って、床ずれができているのです。

床ずれ(褥瘡)の回復と栄養

床ずれができてしまうと、なかなか治りにくく、完治までに時間がかかります。日本褥瘡学会の褥瘡予防・管理ガイドライン2)や褥瘡ガイドブック3)では、床ずれ予防と回復には「皮膚に圧力をかけないこと」と「栄養管理」が重要とされています。

栄養管理でいちばん大切なのは、低栄養状態の回避・改善です。

栄養状態が悪い場合には、その原因の検索を行いつつ、高エネルギー・高たんぱく質・必須ミネラルの補充が欠かせません。
特に、傷の回復に忘れてはいけない栄養素は「ビタミンC、ビタミンB1、亜鉛」です。ビタミンC、B1は皮膚の構成成分であるコラーゲンをつくるために欠かせません。亜鉛は皮膚をつくる細胞の再生・修復に重要な働きをしています。栄養状態が改善しても、ビタミンC、ビタミンB1、亜鉛が不足していると床ずれの回復が遅れてしまうのです。
床ずれがある患者さんの血液中の亜鉛濃度は、床ずれが酷くなるほど低かったという研究4)結果もあります。亜鉛は傷の回復には欠かせないミネラルです。適切に補充するために医師や薬剤師に相談をおすすめします。

1) 褥瘡について | 日本褥瘡学会
http://www.jspu.org/jpn/patient/about.html

2) 褥瘡会誌(Jpn J PU) 2015; 17(4): 487-557,
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf

3) 日本褥瘡学会編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック第3版. 照林社. 2015; 51-68

4)岡田淳、小酒井望、只野寿太郎ほか:褥瘡患者における血清亜鉛の動態.微量金属代謝 1975; 1: 43-47

監修:
帝京平成大学大学院 健康科学研究科
特任教授 児玉 浩子 先生