脱毛による悩み

脱毛

脱毛症とは

「毛が抜ける」
健康な成人では毎日50~100本の髪の毛が抜けています。平均して約10万本ある髪の毛は、2~5年かけて全て生え変わるのです。これは人の生理的な現象の1つです。
けれども

  1. 1日に抜ける量が多くなる
  2. 抜けるペースと生え変わるペースがアンバランスになる
  3. 毛が細くなる
  4. 毛が切れやすくなり、髪の毛の本数や量が維持できなくなる

この状態を「脱毛症」と呼んでいます。1)
脱毛症には年齢や性別・生活習慣、ストレス、ホルモンバランスなどさまざまな原因があり、症状・対処法も異なっています。

ヘアサイクル

ヘアサイクル(毛周期)とは、髪の毛が抜け→生え→伸び→抜けるまでの周期のこと。
髪には寿命があり、自然に髪の毛が抜けた毛穴には次の髪の毛が生えていて、成長期になると髪の毛が伸びていきます。数年経過すると髪の毛の成長はとまり(退行期)、髪の毛が抜けやすくなる状態(休止期)になります。そうすると、自然に髪の毛は抜け、また次の髪の毛が育ってくるのです。
髪の毛全体の約85-90%が成長期、残り約10%が休止期で、毎日80~100本前後の髪が抜けても、ほぼ同じ量の髪の毛が生えてくるので、一般的に髪が薄くなることはありません。
このヘアサイクルが乱れたり、髪の毛が細くなったり切れやすくなった結果、脱毛症になってしまうのです。2)

毛周期

脱毛症の種類

脱毛症は、以下の3つにわけることができます。2)

症状 病名
髪の毛の脱落(抜け毛) 円形脱毛症、トリコチロマニア、休止期脱毛、内分泌異常、栄養障害、皮膚感染症、ホルモンバランスの乱れ、皮膚腫瘍、瘢痕性脱毛、薬剤・化学物質
軟毛化(髪の毛が細く短くなる) 男性型脱毛症
髪の毛の脆弱性(毛が切れやすいなど) 各種の毛髪奇形

脱毛症の原因と症状

「脱毛症」といっても、その原因と症状はさまざまです。
例えば、細菌や真菌感染症、脂漏性脱毛症や粃糠(ひこう)性脱毛症のように皮膚炎から起こる脱毛があります。この場合は、皮膚炎や皮膚の感染症を起こした部位のみに脱毛がおきます。この場合、早期に適切な治療を行うことで、脱毛症の改善と治癒が期待できます。

また、甲状腺機能低下・亢進症のように、内分泌系の病気が原因の場合もあります。この場合の脱毛症は髪全体におきるのが一般的です。
原因がわからない脱毛症も多く、過激なダイエットによる栄養・ミネラル不足も若い女性に増えています。
さらに、火傷や怪我で毛根がダメージを受けてしまった場合には、そこから髪の毛が生えてくることはありません。この場合の脱毛症は、治る(毛根が再生する)ことはありません。

脱毛症のなかで一番多いのは「男性型脱毛症」です。
男性ホルモンの分泌が少なくなることでヘアサイクルが乱れ、髪の毛が早く抜けたり、休止期間が長くなります。その結果、おでこの生え際が後退したり、頭のてっぺんが薄くなってしまうのです。日本人男性で男性型脱毛症の方は、20歳代は10%、30歳代は20%、40歳代は30%、50歳代以降は40%以上という研究報告もあります3)

さらに更年期の女性に多い脱毛症もあります。
女性男性型脱毛症です。女性男性型脱毛症は更年期に女性ホルモン(エストロゲン)が減ることで、ヘアサイクルが乱れ、髪の毛が薄くなる状態です。男性型脱毛症と違うのは、髪の毛が抜ける・生えにくくなるのではなく、1本1本が細くなり髪全体のハリ・コシ・ボリュームが減ることで薄毛になってしまうこと。そのため、女性の薄毛では男性のように生え際の後退、頭のてっぺんが薄くなることは起きにくいといわれているのです。

脱毛症と亜鉛の関係

亜鉛は太くしっかりした髪の毛を育て、健康なヘアサイクルを維持するために大切な栄養素(ミネラル)です。亜鉛が不足すると、脱毛症になりやすくなってしまいます。
ここでは、脱毛症と亜鉛の関係について

  • 亜鉛は髪の毛の90%を占める「ケラチン」というたんぱく質の合成・分泌に関与しています。亜鉛が不足するとケラチンが合成できなくなり、健康な髪の毛が作られず、結果として脱毛症になってしまう可能性があります。
  • 脱毛に深く関わる「ジヒドロテストステロン」というホルモンがあります。活性型男性ホルモン「ジヒドロテストステロン」は、亜鉛が不足することで脱毛を促進する働きをしてしまいます。「ジヒドロテストステロン」は男性ホルモンの「テストステロン」に「5αリダクターゼ」という酵素が働くことで作られます。亜鉛はこの5αリダクターゼの活性を抑制し、ジヒドロテストステロンが作られにくくなる作用を持っています。亜鉛が十分にあることでジヒドロテストステロンの量が減るので、脱毛を防ぐ効果が期待できるのです。

他にも脱毛症の予防と改善には、髪の毛と頭皮を清潔にする、適切な睡眠時間を確保する、バランスのよい食生活を心がける、ストレスを溜めないなど、生活習慣の見直しがかかせません。食事では亜鉛をはじめ、ビタミンB群・C、鉄、銅のように、髪の毛の成長と維持に欠かせない栄養素を含む食品を積極的に取り入れ、髪の毛や毛根・毛穴の負担になりやすい脂肪分の多い食事やお菓子、刺激物を控えめにすることも心がけていきたいですね。

漫画・脱毛

1)脱毛症 Q3 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/q03.html

2)脱毛症 Q2 – 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/q02.html

3)板見智:日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査.日本医事新報, 2004 ; 4209 : 27-29

監修:
帝京平成大学大学院 健康科学研究科
特任教授 児玉 浩子 先生